2014年12月22日月曜日

第13回 コースミーティングを開催しました。



 今回の発表では、これまでの研究と学生生活の両立について、研究をしていてよかったことについてなどの話を交えながら、201481721日に米国アラスカ州で行われた国際疫学会にて「Cross-sectional association between sedentary time and body mass index in Japanese population: the NIPPON DATA 2010(日本国民における平静に過ごす時間とBMIの関連)」の演題でポスター発表をした際の報告を行った。以下に研究テーマの背景と研究結果の概要について述べる。

 私が研究指導していただいている社会医学講座公衆衛生学部門では、循環器疾患の予防について国内外の研究者との共同疫学研究が行われている。循環器疾患は、日本人の死因の上位を占めており、循環器疾患の予防法を明らかにすることは、日本人の健康増進のために不可欠である。また、循環器疾患の発症に影響を与える食生活や運動などの生活習慣は、個人の努力によって変えることができるため、まずどのような生活習慣が循環器疾患の予防に役立つのかを明らかにする必要がある。
 循環器疾患の発症に肥満が悪影響を及ぼすこと、また座って過ごす時間が長くなると肥満のリスクが上がることについては、各国で研究が進められている。しかし、欧米とは疾病構造が異なり、肥満の割合が少ない日本国民を対象とした研究は少ない。
 そこで、日本全国から無作為に抽出された300地区で行われた2010年国民健康・栄養調査と並行して実施されたNIPPON DATA2010の対象者(成人男女2829名)の調査データを用いて、日本国民の平静に過ごす時間とBMIの関連について、性別に統計解析を行った。(NIPPON DATA 2010の詳細:http://hs-web.shiga-med.ac.jp/study/NIPPONDATA2010/
 解析の結果、平静に過ごす時間の平均時間は、男性(5.8時間/日)の方が女性(5.2時間/日)よりも長く、平静に過ごす時間とBMIの関連は、女性において有意に正の関連を示した。従って、平静に過ごす時間を減らすことによって、BMIを減少させ、健康に有益な効果を与える可能性が期待できる。

 今回の学会発表に際して、学生が研究できる環境を整えていただいた研究医コースの方々と、日々研究指導をしていただいた公衆衛生学部門の先生方に感謝申し上げます。

                           大橋 瑞紀【第5学年】 



2014年12月18日木曜日

第12回 コースミーティングを開催しました。




日米の認知症における疫学研究の文献検索
 

認知症患者は世界的規模で増加傾向にある。認知症は多様な原因で発症し得るが、その多くは成因が未だに解明されていない。このような状況の中で認知症の有用な予防対策の決定には、疫学調査によって認知症の実態を理解し、その規定因子を明確にする必要がある。認知症の疫学調査に重点を置いている研究を日米から1つずつ選んだ。1つは米国のHAAS(Honolulu Asia Aging Study)であり、もう1つは日本の久山町研究である。方法としては、HAASと久山町研究のデータに基づいて調査された英語論文を元に検索を行って両者の研究で得られた知見を比較検証した。この2つの研究の比較検証を本ミーティングで発表した。
それぞれの性・年齢標準化有病率(久山町研究では男女の被験者、HAASでは男性の被験者のみ)の単純な比較をすると、日本在住日本人ではハワイの日系米国人よりも認知症が少ないように見える。このことから、もともと日本人は米国人より認知症になりにくいが、米国の生活環境では認知症が増加する、と言えるのかどうかであるが、厳密な比較を試みた(認知症の診断基準や性・年齢構成、基準集団を同じにして比較した)文献は私の知っている範囲で見つけることはできなかった。これを科学的な方法で正確に比較しても本当にそうであるか、という疑問を今回の文献検索で感じた。今後は、久山町研究やHAAS、他の文献で明らかになった有病率に関する多くの文献を検索したい。
また、規定因子については次のような観点でまとめた。
    危険因子(糖尿病と中年期の高血圧)や予防因子(運動)は認知症の罹患率にどの程度影響しているのか、についてのコホート研究の知見を日米で比較した。糖尿病に関して久山町研究は、2型糖尿病と脳血管性認知症とは無関係であると報告したが、HAASや他の文献ではアルツハイマー型認知症と同様に有意な相関関係にあった。運動では一定の運動量以上は有意な負の相関関係にあるので、今後は最適な運動量と種類に研究の焦点を絞る必要があると考えた。
    HAASや久山町研究によると、中年期の高血圧は脳血管性認知症と強く相関していた。一方、HAASは中年期に高血圧があるとアルツハイマー型認知症の罹患率も上昇していると報告した。アルツハイマー型認知症と中年期の高血圧は、発生機序の上で関係があるのかどうか(アルツハイマー病の病態はニューロン内の変性タンパク質の蓄積だが、その機序に高血圧が関係するのかどうか)は不明なので、この点を今後、疫学的に追求したい。

                              全 泰佑第4学年】