2014年7月25日金曜日

第8回コースミーティングを開催しました。



『神経発生のおっかけを』

滋賀医科大学 医学科2回生
石田 正平

本題に入る前に、自分の所属研究室外での活動について紹介させていただきました。寝ても覚めても神経発生について考えている…ということはなく、昨年度から継続している団体プレコでの滋賀医大保育所「あゆっこ」との交流会(http://danjokd.shiga-med.ac.jp/activity/2013-10-28)、市町村によっては多くの割合を抱える外国人の通う学校への聞き取り、外国人を対象とした医療通訳の聞き取り調査といった話に触れました。 
神経発生と一見関係の無い話ばかりのようですが、様々な年代や異なる環境で生活している人々の行動も神経活動に支えられていることへの認識や、人間の個体と環境の関わりを考えていくことと細胞一個一個とその外部環境(幹細胞とniche)について考えていることの間に共通点を見出していることから、自分では神経科学や神経発生への興味と地続きとなっています。
昨年度の入学後に、研究室見学、実験講習や4大学リトリート(京都大学、神戸大学、滋賀医科大学、福井大学の各研究医コースの学生が集まり、それぞれの研究発表や)等に参加させてもらい、自分の興味関心と重なる等研究室への参加を決めました。
春休み中に参加した生理学会ではゲノム編集に関するシンポジウムでこれからの生物学研究の加速を想像して興奮を覚えましたし、隔週で行われている複数の研究室合同のジャーナルクラブでも様々な新しいトピックに刺激を受けています。

 発表当日は、現在行っている実験の背景と実験について紹介しました。
神経幹細胞から分化していった細胞によりニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイト等の神経組織を構成する神経細胞は生じています。当研究室では、神経幹細胞をNeurosphere assayにより維持し続けることのできる自己複製能と多分化能を有する細胞と定義して研究を行っています。そうした中で

Santos J. Franco et al Neuron77, January 9, 2013 
Shaping Our Minds:Stem and Progenitor Cell Diversity in the Mammalian Neocortex

を参照しながら
 神経幹細胞(=放射性グリア細胞)の段階ではいずれの細胞に分化するのか決まっておらず、胎児期に分化が進行するにつれて、時期特異的に個別の細胞への分化が可能になる前駆細胞への分化が進行していきその後個別の細胞へ分化するとするCommon progenitor modelと神経幹細胞の段階で既にいずれの細胞に分化するのか運命は決定しており、時間が経つにつれてその個別の細胞の分化が進んでいくとするmultiple progenitor modelとの紹介を行いました。

また、
Felipe Ortega et al Nature cell biology, May 5, 2013 
Oligodendrogliogenic and neurogenic adult subependymal zone neural stem cells constitute distinct lineages and exhibit differential responsiveness to Wnt signaling.

を参照してSEZ部分から取った細胞について分裂/分化をライブイメージングで追跡していき、特定の分裂以降は一種類のみの細胞だけが生じている様子を示した研究を紹介しました。
現在、Common progenitor modelMultiple progenitor modelをはっきりといずれかまたは両方(もしくはこのいずれでもない)であるということを示した報告はなく、これを決定するような実験系を検討し進めているところです。

現在行っている実験系で二つのモデルについてうまく「追いかけ」ていきたいですし、神経発生全体の視野からみた話題についてもしっかり「追いかけ」ていきたいと考えているところです。

自分の興味や疑問を実際にぶつけてみたり、学内学外両方からいろんな刺激を受けたりと研究医コースは魅力ある環境があると思います。まずは気楽に入門コースに登録して(何もしなくてもかまいませんし、デメリット?は大学のメールアカウントのメールが月に数通増える程度です)、先生方や周囲と相談するうちにチャレンジするものを決めていって登録研究医コースへ参加されていくことをお勧めします。


2014年7月3日木曜日

第6回研究医養成コースセミナーを開催しました。

 平成26年7月2日(水)12時から、第6回研究医養成コースセミナーを開催しました。今回は、今年度より大学院生になられた麻酔科の湯浅真由美先生をお招きして、「医師10年目の視点から」という演題で、お話いただきました。
   
 中堅になるまでの10年間の経験や、何故大学院に入られたのか、研究に対する姿勢や抱負などをお話いただき、講演終了後には、参加した学生からの質問にも丁寧に答えていただきました。  







2014年7月2日水曜日

医学総合特論パイオニアセミナー ・第107回支援センターセミナー開催のお知らせ

医学総合特論パイオニアセミナー・第107回支援センターセミナーを、
下記の通り開催致します。
 
 ■ 演 題:「遺伝子改変マウスを用いた癌化の分子機構の研究」

 ■ 演 者: 井上 寛一(滋賀医科大学病理学講座微生物感染症学部門准教授)

 ■ 日 時: 平成26年7月14日(月)17:40〜19:20

 ■ 場 所: 臨床講義室1


<講演要旨>

 私達は癌の発生と悪性化の分子機構を明らかにするために、新しく分離した
癌遺伝子や癌抑制遺伝子の働きを分子生物学、細胞生物学や遺伝子改変マウス
の手法を用いて研究しています。これまでの研究から、癌の発生とその悪性化
には細胞増殖だけでなく、アポトーシスやオートファジー、細胞のエネルギー
代謝などの制御が重要な役割をはたしていることわかってきました。今回はこ
れらの研究の中から我々が新規に分離したDrs癌抑制遺伝子とalternative splicing
によって生じる新しいタイプの癌遺伝子Cyclin D1bについて、これらの遺伝子
が癌化の過程でどのような役割を果たしているかについて紹介します。
 Drsは大腸腺癌、肺腺癌、前立腺癌など様々なヒト悪性癌組織において高頻
度でそのmRNAの発現抑制が起こっています。また、我々が作製したDrsノック
アウトマウスではその約30%にT細胞リンパ腫、肺腺癌、肝癌などの悪性腫
瘍が発生することから、Drsは確かに生体内で癌発生に対して抑制遺伝子とし
て働くと考えられます。さらにDrs蛋白がアポトーシス誘導蛋白ASYと結合し
ヒト癌細胞にアポトーシスを誘導することやオートファジーに関わるRab24と
も結合しオートファジーの制御にも関与していることも見出しました。また癌
細胞の特徴である好気的条件下でも解糖系が亢進する「ワールブルグ効果」の
導入にもDrsが重要な働きをしていることもつきとめました。 Cyclin D1bは
正常組織にはほとんど発現していませんがヒトの膀胱癌、前立腺癌など特定の
癌の組織や癌細胞株で高率で発現していることがわかっています。我々はこの
cyclin D1bを発現するトランスジェニックマウスを作製することにより、この
遺伝子が実際に生体内で癌遺伝子として働き直腸腫瘍の発生に関与することを
明らかにしました。またその分子機構としてCyclin D1bが細胞増殖のシグナル
伝達因子であるErkとAktを活性化することも見いだしました。


◆本セミナーは大学院博士課程の講義として認定されています。


※「医学総合特論パイオニアセミナー・第107回支援センターセミナー開催のお知らせ」より転載。